神田の裕福な商家に育った八十は14歳のときに父親が亡くなり、早大英文科在学中、後を継いだ兄の放蕩と失踪で一家は没落。
遺された家族を養うため、翻訳、株取引、揚げ句の果てに天ぷら屋にまで手を出すが悉く失敗する。そんな時、鈴木三重吉から「赤い鳥」への詩の依頼が舞い込んできた。
唄を忘れた金絲雀は
後の山に棄てましょか
いえ いえ それはなりませぬ
金絲雀は八十自身のこと、文学の道(詩作)を放棄して金策に走っている自責の思いを自問自答する。
背戸の小藪に埋けましょか
いえ いえ それはなりませぬ
柳の鞭でぶちましょか
いえ いえ それはかわいそう
と自問自答を2節3節繰り返す。
終節は三重吉への感謝と希望の光を見出した喜びへと変わっていく。
唄を忘れた金絲雀は
象牙の船に 銀の櫂
象牙の船は「赤い鳥」という児童文芸誌、それに執筆する八十のペンは銀の櫂にも思えるのだ。
月夜の海に浮かべれば
忘れた唄を思い出す
広く世間の目に留まるようになれば、詩作に励む本来の自分に立ち直っていくのだ。
三重吉への感謝と八十の決意が象徴的に表明されている。
かくして童謡の第一号「かなりや」は生まれたのです。