私は今、言葉のもつ不思議さを感じています。詩を読み、詩の心を汲みとろうと繰返し歌っていますと読むだけでは味わえない言葉の息吹を感ずるのです。
詩や曲の解釈という理屈を超えて、言葉自身のもつなにかが旋律や和音にとけて、自然に曲想を作ってくれることが度々ありました。
万葉から古今の時代にかけて、人々は言霊を信じ和歌に託して祈りを行っていたようですが、言葉のもつ不思議な力に思いをはせています。
詩情を読みとろうと思いながら歌う心と、言葉のもつ言霊との触れあいが音楽を作ってくれることを経験しています。
詩は詩人の魂の中で醸造され選ばれた言葉です。詩人の言葉の陰に作曲家の音譜の陰にそれぞれ何万の言葉や音譜が埋もれていることでしょう。それを思うとき歌い手は音楽の中で熟するまで歌い込まなければと思います。
発声や詩と音楽の適合性の問題、また詩の解釈など常に新たな疑問が多く道未だ遠しの感深いものがありますが、とにかく日本の風土にふさわしい日本歌曲の歌唱の姿を求めて歌い続けたいと思っています。
山本健二